あっぷる de アート「錦絵で江戸見物」
まだまだコロナ我慢大会は続きますが、息抜きに歌川広重の粋な構図で江戸見物と参りましょう。
(今回は富士山と藤を愛でられますよ〜富士+藤=不死でコロナに負けない!と願掛けです。)
「絶景かな」とばかりに遠景の富士を望む亀が1匹。
何だか感慨深げな亀さんですね〜って、ちょっと待って!
この亀、吊るされてますよ!!
よくよく考えると、こんな風に吊るされちゃったらジタバタするはずです。
よくよく考えると、こんな風に吊るされちゃったらジタバタするはずです。
作品名:名所江戸百景 第56景 深川萬年橋
製作年:1857年(安政4年)
所蔵 :東京国立博物館
作者 :歌川広重 1797~1858
大判錦絵
何故、亀は吊るされているのか?!
本作は『放生会–ほうじょうえ』という行事に因みます。
『放生会』は不殺生の教えから生き物を自然に返す行事で、各地の八幡宮で盛んに行われました。
放たれるのは鳥や魚が多かったようですが、放す行事の為にちゃっかり売られていたのだとか。
この亀は萬年橋の名にかけて、『鶴は千年亀は万年』にあやかろうとされたようです。
(宙吊りモデルを務めた後は無事に放されましたとさ〜めでたし、めでたし・・・のはず?!)
本作をおさめる「名所江戸百景」、実は119景おさめられています。
広重が亡くなった後も弟子が加えたりしています。
「深川萬年橋」は119景の中で何点かある大胆構図の一つです。
画面の枠のように見えますが、左三方囲っているベージュは手桶で、1つ奥の茶色が橋の欄干です。
欄干から望む景色と、手桶に吊るされた亀が遠近感を強調しています。
亀が諦観の表情ではなく、すっくと首を持ち上げ景色を眺める姿にしてあるのは絵師の意図?!
私達の視点も亀と同化し、欄干の間を窓にして眺める気分にさせてくれます。
新しい視点を教えてくれるようですが、小さい子供の視点にも気づかされる事ってありますよね。
なお、萬年橋が掛かるのは江東区の小名木川ですが、すぐ近くの隅田川と合流。
亀は隅田川の向こうに富士山を眺めているのですが、現在の鉄筋コンクリートの萬年橋から霊峰富士は望めません。
お次は藤の花が美しい亀戸天神。太宰府天満宮と同様に心字池と太鼓橋があります。
作品中の橋は実際より傾斜がきつくて、描かれた母子はおっかなびっくり!
お母さんは転けそうというか落っこちそうですね。
遠くの藤棚の下でお花見する人々、手前で飛ぶ燕と芸が細かい!
緩くカーブを描く藤に対し、お腹を見せて、飛んでいく燕が画面で格好良く効いています。
(さすが粋だねぇ)
睡蓮の絵でも有名なモネは庭に池まで作り連作に励みますが、池にかけた太鼓橋は本作の影響だろうとされます。
作品名:名所江戸百景 第65景 亀戸天神境内
製作年:1856年(安政3年)
所蔵 :東京国立博物館
作者 :歌川広重 1797~1858
大判錦絵
大判錦絵
さて、この作品にはとんでもないミスが1つあるのですが、お分かりになりますか?!
お子さんと考えてみて下さいね!
答えは『橋の下に見える空(藤棚までの半円)が池と同じ青に摺られている』です。
本当は橋の上側の空と同じにすべきなのです。
(空は青だから〜と、うっかりやってしまった摺師さんの顔面も藍色に・・・
間違いや物忘れは誰にだってありますよね。プロにだってあるある!!)
浮世絵には肉筆と木版画があります。木版画の浮世絵は錦絵とも言われ、絵師→彫師→摺師の分担作業となります。
優れた彫師や摺師がいないと成り立たない作品なのですね。
本作は木版で何枚も摺られたものなので正解版も摺られています。
例えミスがあっても絵師の意図が後摺より反映されているだろうと、初摺(しょずり)の方に重きをおく向きも・・・。
後になればなるほど、絵師の指示による細かな手間が省かれた可能性は大です。
鮮やかな色彩と大胆な構図でゴッホをも唸らせた錦絵・・・早く本物を観られる日が来ますように。
何より1日も早くお子さんが安心して遊べる日が訪れますように。