大阪国際文化協会

あっぷる de アート「英国人の誇り」

日没間近な夕景の中を進む、黒の蒸気船と白く大きな船。
空と海面の輝きに見惚れる一枚です。
本作にターナーは二行詩を添えていました。
「戦いにも風にも雄々しくたち向かった旗も
 もはやその面影はない」(ART LIBRARY ターナーp112より)

 

 

作品名:解体されるため最後の停泊地に曳かれてゆく戦艦テメレール号
製作年:1838
サイズ:91×122cm
所蔵 :ロンドン・ナショナル・ギャラリー
作者 :ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(英国) 17751851

 

テメレール号(英語でテメレーア:向こう見ずなの意)ってそもそも、何なのか・・・
1805年トラファルガーの海戦で、ネルソン提督が乗るヴィクトリー号と共に、
ハーヴェイ艦長の指揮で奮闘した船だそうです。
イギリスはネルソン提督を失いますが、フランス・スペイン連合艦隊に大勝利。
海ではナポレオンの野望に待ったをかけます。
(船名が仏由来なのは過去に拿捕した仏船名を継承してるからですって。
皮肉たっぷりなのがイギリスらしいと言うべきかしら〜神経戦のあてこすり感が強い!)

 

その後テメレール号は監獄船→新兵収容艦→解体された廃材は教会建設などにリサイクル。
(教会の椅子にもなって現存するんですよ〜)
本作は解体のため、テムズ河を蒸気船に曳かれて行く情景を描いています。
日没に映えるテメレール号の美しくも哀しい最期の姿。
(解体される=船としての命を終えてしまう・・・これはまさに表舞台からの退場シーン!)

 

でもね、実際の様子とは違うそうですよ。
既に3本マスト等は外されていたのに、勇姿を残すために描いたようなんです。
夕日の沈む位置は本来とは逆。(船の終焉だから、やはり夕日なんでしょう)
実際にあった情景ではあるけれど、画面上の創作でもあるのですね。

 

画面上では様々な対比が見られます。
木製の船に対し鉄の蒸気船(当時の産業革命が感じられ、後に蒸気機関車の名作も誕生)
白に対し黒  青に対しオレンジ
(ターナーといえば、暖色の美しさ!ゴッホとはまた違う黄色とオレンジが魅力です)
左上に見える月に対し、右下に沈みゆく太陽(海面に映る光は対比の繰り返し)
テメレール号の後ろには帆を張った船が描かれています。(これも対比かな)
右下には黒いブイが浮いていていますが、画面上では引き締めて錘の役割を果たしています。
広がる雲に沈みゆく太陽の光が様々な色を見せて美しいです。
(船よりこの夕日をずっと眺めていられそう・・・うっとり)
本作は1839年ロイヤルアカデミーに出品されると絶賛されました。
ターナー自身も気に入って手放さなかった作品なのです。
2005年のイギリス国内投票で「最も偉大なイギリス絵画」に選ばれ、
2020年発行の新20ポンド札の裏には、若きターナーの自画像と本作が採用されています。

 

祖国の英雄ネルソン提督&ヴィクトリー号と同じく、テメレール号が描かれたターナーの作品は
今もイギリス人の誇りなのでしょうね。
(ネルソン記念柱が立つトラファルガー広場の向かいにナショナル・ギャラリーがあり、
ターナーが「子供達」と呼んだ作品群と共に本作はあるのです!)

 

ターナーはロンドン、コヴェントガーデン生まれ(テムズ川近く)いわゆる下町っ子でした。
理髪師&かつら屋の父は、「息子は将来絵描きになる」と言って数シリングで売っていたとか。
ターナーは早熟で14歳で王立アカデミーに入学→26歳でアカデミー正会員→32歳で遠近法の教授
という地位を得ます。
よく旅に出る人でしたが、特に44歳で訪れたイタリアでは大きな影響を受け、
ヴェネツイアがお気に入りとなって光を追求していきます。
(フランス人は南仏の陽光。ターナーはヴェネツィアの陽光?!やはり水の側が好きなのね)
ターナーの風景は光を追うだけでなく、大気まで追い続けた結果、画面は曖昧になって賛否両論。
きちんと描き切れる実力があるのに、何でモヤモヤと全てが渾然一体となった様な絵を描くのか?
一部の偉い方々には分からなかったのかも知れませんね。
既に印象派の様な作品があるあたり・・・ターナーは機関車の如く先を走っていたのかも。
実際、モネはターナーの作品から学ぶものがあったようですよ。

2/16()に作品をご紹介します。よろしければお子さんとターナー作品をお楽しみ下さい。
(初めてみる船がターナー作品ってのも素敵♪)
参考文献:「ART LIBRARY ターナー」Wゴーント著 および 「TURNER 」JOHN WALKER著
Scroll to Top