あっぷる de アート「悲劇のヒロイン」
解けてしまった花冠も悲しい最期を暗示するかの様ですね。
製作年:1852年
サイズ:76.2x111.8cm
所蔵 :テート・ブリテン
作者 :ジョン・エヴァレット・ミレー(英) 1829〜1896
『落ち穂拾い』『晩鐘』のミレーは別人
シェイクスピア4大悲劇の1つハムレット。
暗殺された父王が亡霊となり、犯人は弟(ハムレットの叔父)であると告げる。
復讐の為に周囲も騙し狂人のフリをするハムレット。傷心のオフィーリア。
誤ってハムレットに刺し殺されるオフィーリアの父。
精神のバランスが崩れ、川で溺れ死んでしまうオフィーリア・・・
で、その場面を描いたのがこの作品!(前置きが長かったわ〜)
王妃(ハムレットの母)のセリフで告げられるオフィーリアの死を、見事ビジュアル化したミレー。
オフィーリアを描いた作品は数あれど、彼女の表情、ドレスが水を吸って沈んで行こうとする様、
周囲の美しい景色(今も輝く川辺の緑!)・・・それらの美が悲劇を訴える力は一番!
描かれた花々は彩りとしてだけでなく、花言葉に込められた意味があるそうです。
赤いケシは他のオフィーリア作品にも見られ、『死』を意味します。
スミレは『貞節』、勿忘草は『私を忘れないで』、
ヒナギクは『無垢』、枝垂れ柳は『見捨てられた愛』ですって〜
(死にゆく乙女に色々と背負わせすぎ!)
画家は川辺の景色を描くのに何ヶ月もかけ、モデルには着衣で湯に入ってもらい描きました。
温めていた火が消えても我慢していたモデルは肺炎を起こし、父親が治療費を求める大騒動に〜。
(これを値切ったミレーってどうなの?)
本作のモデルを務めたのは、画家仲間のミューズだったエリザベス・シッダル。
ロセッティ(詩人・画家)の妻となった後は他のモデルになるのを禁じられます。
ロセッティ自身は結婚後も遊びまくり!
エリザベスは精神を病んでしまい、アヘンチンキの大量服用で亡くなってしまいます。
(ここにもまた悲劇が一つ・・・)
さて、舞台そのものはオフィーリアの死で終わりではなかったですよね〜
(韓流ドラマも真っ青の過酷な展開の末、主要メンバーが続々と・・・)
えっ!古典的なものは苦手?!
いえいえ普遍のテーマでしょう(ここポイントね!)
でも大仰な舞台をわざわざ観る気になれない?!
大丈夫!映画にもなってます。(だって、普遍のテーマだから!まだ言う)
何本かありますが、古いものではローレンス・オリヴィエの監督主演『ハムレット』1948年。
モノクロフィルムですが、『風と共に去りぬ』で有名なヴィヴィアン・リーが追っかけたのも納得の美男。
舞台人オリヴィエとしては、英国を代表するシェイクスピア作品は誰にも譲れなかったのかも?!
映画も興味ない?!では、文豪 夏目漱石でいかが。
イギリスに留学した漱石(金之助)は美術館に足を運び、本作『オフィーリア』やターナーの風景画が印象に残った様です。
本作は草枕に登場。
「土左衛門は風流である」「〜水に沈んだまま、或は沈んだり浮んだりしたまま、只そのままの姿で苦なしに流れる有様は美的に相違ない。〜」 –『草枕』より引用 –
と温泉に浸かる画工の思索シーン。(土左衛門って・・・おいおい)
有名な冒頭文「〜兎角に人の世は住みにくい」は続き、「〜あらゆる芸術の士は人の世を長閑にし、人の心を豊かにするが故に尊い」とあります。 –『草枕』より引用 –
兎角この世は生き辛くとも、アートは慰め潤いをもたらす・・・はずなのです。(文豪推し♪)
そんな訳でシェイクスピア作品はあまりにも影響が大きく、オフィーリアは忘れられないヒロイン。
舞台から絵画・映画・小説と登場するのです。(アートから文学まで繋がる繋がる♪)
ミレーの描いたオフィーリア、漱石でなくともやっぱり忘れ得ぬ女性『絵』となるのかも。
参考文献
「ラファエル前派の世界」 平松 洋 著
「ジョン・エヴァレット・ミレイ」 ヴィクトリア朝 美の革新者 荒川 裕子 著