あっぷる de アート「可愛いヨハネ」
フワフワの子羊と可愛らしい男の子。
ただただ愛らしい絵なのですが、実は宗教画。
描かれたのはイエスに洗礼を施したとされる洗礼者聖ヨハネ。
荒野に暮らし人々に悔悛を求め、服はラクダの毛衣、ご飯はイナゴ(昆虫食の先取り!)
そんな洗礼者ヨハネを本作は、幼い男の子で表現しています。
作品名:幼い洗礼者聖ヨハネと子羊
製作年:1660〜1665年
サイズ:165x106cm
所蔵 :ロンドン・ナショナル・ギャラリー
作者 :バルトロメ・エステバン・ムリーリョ(スペイン) 1617~1682
何故この可愛い男の子が洗礼者聖ヨハネであると言えるのか?!
(荒野で修行している身だから頭ボサボサ、髭もじゃが普通なのに・・・)
・ラクダの皮衣を着ている
・細い十字架がある(葦の茎製)
・リボンに「見よ、神の子羊」のメッセージがある
(これらは福音書由来だったりします)
絵の中にこれは誰なのか・・・というヒントがあるのですね。
ギリシャ神話であれ、キリスト教であれ、モデルが誰かを示す物や動物があります。
『アトリビュート』と言われるもので、要はお決まりのセット物です。
これがあるおかげで、イエスの愛弟子である使徒ヨハネとは別人と区別もつくのです。
子羊は『神の子羊イエス』を指すので、本作は洗礼者ヨハネとイエスが描かれていると言えます。
各々の信仰心はさておき、磔刑や、矢の刺さった殉教者など痛々しい絵が多い中、
母子像や幼子の絵は安心して観られるし、癒されますよね。
(洗礼者ヨハネの最期だってサロメに首を所望されて、お盆に首がのった状態に〜続きは別の機会に)
ムリーリョは正に純真無垢なマリア様も複数描いています。
手を胸で合わせ天を見遣るポーズが画家のお得意だったのか、ウケたのか・・・
タイトルを見なければ降りてきているのではなく、天に昇っていく図にも見えそうです。
(ちょっと周りの天使が多過ぎ?!次から次へと湧いて出るくらい全力で祝福!!)
作品名:無原罪の御宿り
製作年:1678年
サイズ:274x190cm
所蔵 :プラド美術館
作者 :バルトロメ・エステバン・ムリーリョ(スペイン) 1617~1682
このマリア様の絵はナポレオン軍が攻めてきた時に、軍帥スルトに持ち去られたという曰く付き!
スペインの返還要求に対しルーブルは別作品との交換で応じています。
(ただでは返さなかったのねぇ。何はともあれ作品は1941年に無事帰還!)
ムリーリョの初期の画風は、明暗のはっきりしたものでしたが、
霧のような霞みがかったような描き方(スティロ・パボローソ=薄もやの様式)になりました。
優しい光、柔らかなタッチ、雲から現れる天使、ふわふわと少し甘い雰囲気・・・ぴったりですね。
ムリーリョは十数人兄弟がいましたが幼くして親と死別、親戚に育てられます。
自身の子供は次々とペストで亡くしています。
宗教画だけでなく、貧しい市井の子も描いたムリーリョ。
貧困や疫病で生き延びることすら難しかった時代に、子供への優しい眼差しがあったのでしょう。
参考文献
「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」p156 川瀬佑介(監修)
「プラド美術館 スペイン美の物語」大高保二郎・雪山行二(編集)