大阪国際文化協会

あっぷる de アート「ギロチンの落ちた後」

今回は「児童虐待防止推進月間」に因み、子供の権利を奪われた王女と王子を肖像画でご紹介。
マリー・アントワネットがオーストリアとフランスの同盟として嫁ぎ、生まれた子達。
王妃のお気に入りだったヴィジェ=ルブランが描いた王女と王太子は、憂いなく幸福だった頃を伝えていますが・・・

作品名:王女マリー・テレーズと王太子ルイ・ジョゼフ
製作年:1784年
サイズ:117.5×94.3cm
所蔵 :ヴェルサイユ宮殿
作者 :エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン 1755~1842(仏)

国王夫妻は1歳にも満たない第二王女を亡くし、1789年には大切な世継ぎだった長男ルイ・ジョゼフを脊椎カリエスで亡くします。
(1789年はバスティーユ陥落の年でもあり、フランスは革命の道を突き進むことに)
ヴィジェ=ルブランは亡命、アレクサンドル・クシャルスキが王妃の肖像画家となります。

王太子を継いだのは次男ルイ・シャルル。
次の肖像画の通り可愛らしい王子で、明るく活発な子だったそう。(宮廷のアイドルね)
アントワネットはルイ・シャルルのことを、『心の優しい子だが、流されやすく、嘘をつくつもりはないが誇張してしまう。・・・』長々と養育係に書き送っています。
(若い頃のアントワネットの欠点と共通する所も?!)
愛に溢れ心配もする王妃の文面からは母の顔が浮かび上がります。

作品名:王太子ルイ・シャルルの肖像
製作年:1792年
所蔵 :ヴェルサイユ宮殿
作者 :アレクサンドル・クシャルスキ 1741~1819 (ポーランド)

1793年ルイ16世はギロチンにかけられ、ルイ・シャルルは囚われのルイ17世に。(戴冠式無しだけど)
家族と引き離された王子は立派な革命家にするという名目で虐待を受けたそう。
母と叔母が不利になる酷い話を吹き込まれ、強制的に証言させられ・・・
(尋問調書に残る王子の拙いサインがまた悲しい)
待遇は悪化し、光も風も入らず便器すらない部屋は掃除されず、看守の罵声を浴びる毎日。

一方、塔の外では飽きもせずギロチンが落ち続け、革命家ロベスピエールも死刑に。
ようやく診察を受けた時には、汚物にまみれ背中が曲がり、歩くことも出来ない状態。
もはや手遅れで1795年10歳で亡くなります。

後年「実は生きていた。脱出していた」とルイ・シャルルの偽物が度々現れ、
姉マリー・テレーズを悩ませました。
(出た〜王族のやっぱり生きていた説!)
実は王子が亡くなった際、医師が心臓を取り出していました。
DNA鑑定により2004年、王子の心臓と証明されタンプル塔で放置され亡くなった事も確定したのです。

叔母まで処刑され、たった一人生き残ったマリー・テレーズはどうなったのか?!
過酷な幽閉生活から生涯、発語に苦労する事に。以後、肖像画に明るい表情は戻りません。
(思春期だからではなく、辛い日々が王女の笑顔を奪ったのね)

作品名:マリー・テレーズの肖像
製作年:1795年
サイズ:110.5×88.5cm
所蔵 :エルミタージュ美術館(ロシア)
作者 :ハインリヒ・ヒューガー 1751~1818 (独)

1796年マリー・テレーズは捕虜との交換で母の母国オーストリアへ渡りますが、ナポレオンの進撃によりヨーロッパを流浪。(こういう時、各国王族から支援が!)
そんな中、アルトワ伯(ルイ16世の末弟)の息子ルイ・アントワーヌと結婚。(いとこ婚)
自身も援助される身でありながら亡命貴族達を援助し、叔父達を支え、ナポレオンを怯ませもしたのです。
王女が軍を奮起させようと立った時には「ブルボンで唯一の男」とナポレオンが呼んだそう。
(女帝マリア・テレジアの孫でもあるし、誇りと勇気は人一倍!)

ジャン・グロが描いたマリー・テレーズ は目の下のクマがそのまま・・・
(ヴィジェ=ルブランならお直し入れてくれた筈なのに〜)
尚、ジャン・グロはナポレオンの肖像画家でした。(そっちは結構盛って描いているの)

作品名:マリー・テレーズ(アングレーム公爵夫人)
製作年:1817年
サイズ:73×60.9cm
所蔵 :ボウズ博術館(英)
作者 :アントワーヌ=ジャン・グロ 1771~1835(仏)

1824年 舅がシャルル10世に即位し、末は祖国で王妃・・・とはいかず、1830年 7月革命によりオーストリアへ亡命。(王党派には悪夢ね)
王政、共和政、帝政を転変し続ける母国に翻弄されたフランス最後の王女は、72歳で生涯を閉じたのです。

*アントワネットの肖像画を数多く描いたヴィジェ=ルブランの紹介はこちら

参考文献
「マリー・アントワネット」シュテファン・ツヴァイク(著)
「マリー・テレーズ」ネーゲル,スーザン(著) 櫻井郁恵(訳)
「マリー・アントワネットと悲運の王子」川島ルミ子(著)

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